78人が本棚に入れています
本棚に追加
頭上でゴロゴロと気味の悪い予告を繰り返す雷雲に、男は構う様子も無かった。街の中心部を流れる川の土手を深夜、憑かれたように黙々と歩く。
突如雲間が裂けた。閃光は男のすぐそばの木を直撃し、爆音と共に辺りは白昼の光に包まれる。
棒切れの様に倒れた男はそのまま転がって草間に消え、辺りには不穏な静寂が残された。
◆
遠ざかっていく救急車の音に揺り起こされ、時田純平は重い瞼を開けた。やけに背の高い草のむこうに、見覚えのある川沿いの土手が見える。 今がいつなのか、自分の身に何が起きたのか、状況がはっきりしない。
霞む目を擦ろうとしたが、顔に触れたのは柔らかな毛で 覆われた何かだ。改めて自分の手を見る。
――え?
腹を見る。足を見る。萎えた足でヨタヨタと一周して背中を見る。
――ちょっとまて。
横を見ると背丈ほどもある巨大なダンボールがひっくり返っていて、やはり巨大な文字で「拾って 下さい」と書いてある。
そんなバカな……とは思ったが、恐る恐る声を出してみると喉の奥からは細いミィ~という音しか出てこない。
最初のコメントを投稿しよう!