曇りのち雨、ところにより猫

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◆ 西日すら当たらない路地裏のアパートの前で足を止め、大河内雅刀は錆びついた鉄階段の先を見上げた。 スタッズの打ち込まれた革靴で、鈍い音を響かせながら階段を上がる。左端の扉の前で立ち止まり、軽くノックした。 「時田さん、いるんでしょう。時田純平さーん」 呼びかけてみるも、部屋の中からは物音ひとつ聞こえてこない。雅刀は片手をポケットに突っ込んだまま、薄汚れた扉を蹴りつけた。 「このドア、外れそうだよなあ。いやあ、なんでだろう」 台詞をわざと棒読みしながら、赤い髪に指を通す。室内に気配を感じたところで雅刀はもう一度扉を軋ませる。 恐怖に上ずった声がしてドアが開くと、雅刀は僅かな隙間から身体を室内にねじ込んだ。 「無視とは酷いな、時田さん」 薄暗い室内で、雅刀は胸倉をぐいと掴み上げた。目を合わせることすら恐ろしいといった様子で、無精ひげの男は視線を彷徨わせている。この男が時田純平だ。 「金払えよ、泥棒猫が」 雅刀が声音を一転させると、純平の体が震えあがった。
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