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「最近の大人は常識がないねえ。借りたら返す、当たり前だってのに。おたくも事業失敗で大変だろうけど、うちも商売なんでね。困るんだよねえ、あんたみたいな客がいると。せめて誠意ぐらい見せろよな」
今すぐ金を払えとばかりに手のひらを出すと、純平は表情を凍らせた。
「今日の利息くらいは払えるでしょう。五万円。スマホ貸してやるから今から知り合いに電話しろ」
駄々をこねる子供のように、ただ首を横に振るだけの純平に、思わず失笑を漏らす。
「最近、高齢者の自動車事故が増えてるよなあ。たしか、時田さんの母親は呉に居たよなあ?」
「そんな! それだけは勘弁してください。金はすぐには無理だけど、待ってもらえるなら何でもしますから!」
縋りつく純平をなぎ払い、雅刀はにやりと唇の端をつりあげた。
「仕方ないな、俺も鬼じゃない。譲歩してやるか」
雅刀は靴も脱がずに部屋の中に上がりこむとメモ紙を見つけ、ある住所を走り書きする。
「ここに男がひとり住んでいる。今日の夜中に殺して来い。……まさか、出来ないなんて言わないよなあ、時田さん」
イエス、以外の言葉を封じるように、力の抜けた純平の手に紙の切れ端を握らせると、雅刀は満足げに、遠雷轟く小雨まじりの道を引き返した。
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