曇りのち雨、ところにより猫

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温かなタオルに埋もれてじっと部屋を見回しているうち、 更に詳細な記憶が蘇ってきた。嵐が去った河原でこの青年に拾われた事、遡って、その川沿いを自分が雷雨の中歩いていた理由…。 ――そうだ。俺は人を殺しに行く途中だった。それなのになぜ猫なんかに。 「ちくわ。ほら、ミルクだぞ」 よりにもよって名前は“ちくわ”かよ! そこも全く納得 行かない純平だったが、目の前にそっと置かれた皿から漂って来た甘い匂いは眩暈がするほど魅惑的で、そんなすべてを忘れさせた。 おいで、と青年に誘われて皿に近づき、足を踏ん張って白い液体をなめた。ほんのり温かくて蕩ける様に甘い。死にそうに美味かった。夢中で最後の一滴まで舐め尽し、もっとくれと青年を見上げて鳴いてみた。 青年が純平を見て おかしそうに笑う。「お前ミルクだらけだぞ」と口元をぬぐい、頭を撫でる。純平はなぜだかちょっと幸せな気分だった。 頭を撫でられたり抱かれたりした記憶が純平には無かった。子供の頃、母親はいつも病気がちで伏せっていて、同居していた叔母は子供嫌いだった。頭を撫でられることがこんなに気持ちいい事だったなんて……。 ぐぐっと体中に気力が沸き、純平はタオルの渦から飛び出した。
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