曇りのち雨、ところにより猫

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「あーよかった! じゃあちょっと警察行って来るね。ほらあんた、早く車出して!」振り返って運転席の若い警官を怒鳴りつける。 「セージくんまたあとでね~!」嵐のようにその声は遠ざかっていく。野次馬たちも散り始め、そこには二人と一匹が残された。 「えーと……兄妹?」誠司はパトカーを見送りながら呟いた。 「ある意味すごく納得できるような気もするけど」有無を言わせぬ強引さはそっくりすぎる。 「ああ……。とにかく、よかった~」 緊張の糸がぷつりと切れて、純平はへたり込む。それを見て肩の力が抜けた誠司も隣に座った。いつの間にか、空が明るくなり始めている。誠司の腕からするりと抜けたちくわが純平を見上げた。ついさっきまで自分が入っていたなどと思えない、軽い体を純平は抱き上げる。 この藍色の目を通して、純平は6日間ずっと村井誠司を見ていた。誰にも頼らずバイトで学費を稼ぎ、深夜まで勉強し。それだけでも時間が無いのに拾った子猫に精いっぱいの愛情を注ぐ、この堅実で優しい青年に、純平は沢山の事を学んだ気がした。 ――ここからやり直そう。 「さっきは突然驚かせてごめん。信じてもらえるか分からないけど、実は俺……」 聞いてやるよ、話してみて。そんな風に目を細めて、誠司はじっと純平を見つめる。 一緒に過ごしていた時の、あの空気感だ。不思議と胸が熱くなる。 ほんの少し言葉に詰まった純平の膝の上で、ちくわが小さく、あくびをした。 - fin -
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