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「まあ、大変。では、そんな新聞王の孫息子さんにお土産を差し上げるわ」
土産? と片眉を器用に跳ね上げた美貌の男へ、ソフィはレティキュールから一枚のカードを取り出した。テーブルを滑らせてルークの前に差し出されたそれを、彼は取り上げてしげしげと見つめた。
「今朝、恒例のアドベントカレンダーが届いたの。昨年と一緒、差出人は無しよ」
それ、と視線で渡したカードを指すと、ルークは顎を手でさすりながらふむ、と唸った。細められた瞳からは、彼の考えなど読み取れない。
「君はどうして、そのカレンダーの差出人と君の捜し人が同一人物だと?」
問われて、ソフィはカップを傾けていた手を止めた。ぱちぱちと何度か瞬いて、視線を斜に落とす。
彼女の、何かを考えるときの癖だった。
「初めてカレンダーが届いた時、それとは違う文面のカードが添えられていたの。カードにはやっぱり名前がなくて、けれど、こう書かれていたのよ。『もうすぐ約束を果たせるよ』って。……結局、彼は会いに来なかったけれど」
「約束?」
「彼が姿を消す前に、私と交わした口約束。僕がずっとそばにいるよ、って。きっとそのことだと思ったわ」
「頭のイカレたストーカーの仕業だとは思わなかったのか?」
ブランデーを呷ってから、彼はことりと首を傾げた。彼の瞳はいつにない鋭さをたたえている。きっと、無謀な人捜しの手伝いを続けるに足る心持ちかどうか、試しているに違いない。
ソフィは彼の瞳を見つめて、ゆるく首を振った。思わなかったわ、と。
「不思議ね。一瞬でも彼かもしれないと思ったら、それ以外の答えが出なくなったの。あなたも、私のおかしな思い込みだと笑う?」
それを父と兄に話したとき、父は黙って渋い顔をして、兄はただの妄想だと笑った。そんな証拠もない昔の記憶に縋るより、現実を見て結婚相手を探せ、と。
彼もそう思っているのかもしれない。二十七にもなって、幼い頃の戯れのような口約束をいまだに信じている憐れなオールド・ミスだと。
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