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「おかしな思い込みだとは思わないよ」
沈みかけた気持ちを掬い上げるように、ルークがぽつりと答えた。ソフィの問いへの返事だろう。もう一度しきりに目を瞬かせたソフィは、ルークから目を逸らして「そう」と呟いた。
そっけない態度に反して、頬がほんのりと熱を持つ。これは、初めて自分の考えを肯定されたことへの照れと喜びのせいだ。きっとそう。それだけ。
「現に、それらしい少年の目撃談も見つけた」
「……え?」
「十六年前に、フリート街近辺で条件に合う少年がうろついていたという情報だ。この一年半、探し回ってたったそれだけだが、一応は前進だろう」
慎重に告げられたルークの報告は、明日世界が滅亡するとでも言うような現実感のない衝撃をソフィへ与えた。
続く、「だが」という彼の接続詞からなる一連の言葉もまた、同様に。
「仮に君の捜し人が見つかったとして、君は彼に何を望むんだ?」
「なに、を?」
「かつての約束を果たすため、結婚してくれと迫るのか? それとも、わざわざここまで労力を割いて、今更お友達になってください、とでも頼むのか?」
「そんなこと!」
声を荒げかけて、ソフィは口を自分の手で塞いだ。さざ波のような話し声だけがときおり聞こえるクラブ内で、大声など出せば出入り禁止になるのは目に見えている。
けれど彼女が口を閉ざしたのは、それ以上に、続ける言葉を見つけられなかったせいでもあった。
幼い頃の口約束を、寂しいときの心の慰めに生きてきた。
会いに来ると嘯いて、今まで一度も会いに来なかった少年を、それでも待ち続ける明確な理由などなかったのだ。
ただ、会いたかった。今では焦がれるほどに心に焼き付いた、ソフィの心の支えであるその人に。
(それだけではいけないの?)
苦い顔でカップを見つめる、その瞳には荒れた海と同じ色が滲んでいた。
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