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(私は彼に、何を求めているの?)
ルークに問われた疑問を、夢うつつに自分へ問いかける。
そんな起き抜けだったもので、寝覚めはすこぶる悪かった。眠っている間に泣いたのか、目元は腫れて顔は浮腫み、とても人前に出られる風体ではない。
今日は体調が悪いと偽って、このまま一日布団にくるまっていようか。邪な考えがよぎったソフィの耳へ、しかし、朝から騒々しいノックが飛び込んできた。
「ソフィ。ソフィ! 居るんだろう、返事をしなさい」
「……挨拶もなしに朝から騒がしくわめくだなんて、兄さんのマナー教本にはさぞ楽しい教えが満載なのでしょうね」
ソフィの声を聞いてドアを開けた彼女の兄は、厳格な性格に相応しい仏頂面で彼女の部屋に乗り込んできた。
「それではお前のマナー教本には、人との約束を半日遅刻すること、とでも書いてあるのだな」
「約束?」
「私は昨日、最後の礼拝が終わったら礼拝堂へ来るようにとミセスに言付けておいた筈だが」
言われて、ソフィは「あ」と思い出したように声を上げた。昨日の朝、アドベントカレンダーを持ってきた雑役婦に言われたことを、すっかり忘れていたのだ。
「ごめんなさい、兄さん。昨日は考えることが色々あって」
しおらしく項垂れたソフィは、ベッドから出て頭を下げた。あの後、クラブを出てから汽車に揺られて帰ってくる間、ルークに問われたことをずっと考えていたのだ。
カレンダーが届いた緊張感や、日曜学校の授業もあってか、帰宅した途端すぐに床についてしまって、結局答えは出なかった。
「はぁ……もういい。どのみち、話を聞かずに困るのは、私ではなくてお前だからな」
「どういうこと?」
怪訝そうに尋ねたソフィへ、兄はしかつめらしい顔で彼女の首元に縄を掛けるがごとき一言を放った。
◆
町を歩けば今日が盛りとばかり、すっかり聖夜の彩りに満ちていた。
方々の店ではクリスマスプディングやミンスパイが売られているし、広場では旅芸人たちが劇を演じている。
憂鬱を吐いた息と共に逃がしながら、ソフィはすっかり見慣れたクラブのドアを押し開けた。
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