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照明の控えられた淡い暖色の店内を見回して、輝くような金色を探す。その名にふさわしい、光をもたらす人。果たして、彼はすぐに見つかった。
「よかったわ。今日もあなたが来てくれていて」
落とした声音で声を掛けると、男はソフィへ振り返ってシニカルに笑った。
「君は今日も来てくれないかと思ったよ」
「さすがのあなたも痺れを切らすところだったかしら。ミスタ・ゲインズ」
「二週続けてすっぽかされれば恨み言のひとつも言いたくなる」
「ごめんなさい、ちょっと内輪でごたついていたの」
いつも通りにブランデーを呷るルークが、ソフィのためにクリスマスティーを注文する。他の客もちらほらと頼んでいるのか、そこかしこでシナモンと柑橘系の香りがした。
「今日は聞かないんだな。『その後、進展はあって?』と」
「そうね、進展があれば嬉しいけれど、もう、ここには来られないかもしれないから……意味はないかしら」
何気ないふうを装った言葉だった。それが成功したかはわからないけれど、弾かれたようにソフィを振り返ったルークは彼女を凝視している。
自分の耳を疑っているのか。彼の気持ちが、ソフィには少しだけわかった。かく言う彼女も、その話を初めて聞いたときは兄を凝視したものだ。
「婚約、させられそうなの。私がここで、家族に内緒であなたに会っているのが兄の耳に入って。外聞が悪いから、妙な噂が広がる前に身を固めろって」
「内輪のごたつきって、それ?」
「そう」
だからもう会いに来られなくなるわ、とソフィは続けた。氷の溶けたブランデーが、ぴくりと震えた彼の手の中で揺れる。
一体、いつからここで待っていたのだか。
「今日は、最後に私の答えを伝えに来たの」
「答え?」
「私が、私の捜し人に望むこと」
カチャリ、とタイミングよく、クリスマスティーが配された。赤と緑で絵付けされた、この日のための茶器に、飴色の液体が品よく揺らめいている。
ソフィはそれを一口飲み下して、舌の根が冷めないうちに答えを転がした。
「きっと私は、突然行方をくらませた彼が幸せなのかどうか、確かめたかったのだわ」
ソフィは長く、ともすれば今も、幼い頃に交わした約束を支えにしながら生きてきた。同じように、少年だった幼なじみもまた、約束に縛られて生きているのではないかと思ったのだ。
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