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僕はお菓子の家のドアの前に立って、かなり緊張していた。
「嫌ぁあああ!!!!!」
妹のグレーテルに似ている叫び声だった。怖くなりながらも、意を決してヘンゼルはドアノブを掴んだ。
いや、まさかグレーテルなわけがない。そう自分に言い聞かせ、ドアを勢いよく開けた。
その先には、魔女の後ろ姿と、血まみれになったグレーテルの姿があった。
「血だ……人間の血だ……」
嬉しそうに血を舐める魔女。
魔女の左腕にはグレーテルが抱えられ、床には血まみれの斧が無造作に置いてあった。
何が起こっているかはわからなかった。
でも、確かにあれはグレーテルだ。信じたくはなかった。
「おや……」
グレーテルに夢中だった魔女が僕に気づいた。思わず、ごくりと息を飲む。
逃げたいのに、まるで金縛りにあったように体が動いてくれない。
腰を抜かしそうなのを、必死で堪える。
魔女が狂気に満ちた笑顔で振り返った。そのおぞましい姿に涙さえ出そうになった。
「本当にお前は悪い子だねぇ。勝手に他人の家に入っちゃダメだろう?」
僕は呼吸が乱れていくのを感じる。
「あんたにゃ悪いがグレーテルは死んだよ。この子はなーんにも使えないからねぇ。焼いて食べてやるのさ。人間は『おいしい』からねぇ」
ニタリと笑って、目を細める魔女に緊張は最高潮に達した。
ここにいちゃいけないと、自分の心が警笛を鳴らす。
逃げろ!
逃げろ!!
ここであったことは忘れろ!!
心が自身にそう訴えてきた。
もう僕の視界はぐちゃぐちゃだった。涙と鼻水が出てくる。
襲いかかってきそう魔女を前に、ドアを勢いよく閉め、無理やり体を動かした。
早く父にこのことを知らせよう。
そう思って全力で走った。
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