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「ほら、早くしろって。母さんが待ってる」
「……お兄ちゃん、よく母さんって呼べるね」
軽蔑した目でグレーテルは僕を見る。
それもそのはず、今の母さんは僕らの本当の母親じゃない。
本当の母さんは、一年前天国へ旅立った。
優しくて、病弱なのにいつも気丈に振る舞っていた。料理も美味しいし、小さい頃、寝る前はいつも本を読んでくれた。眠れないときは眠れるまでずっと添い寝をしてくれた。
でも、そんな母は流行り病で亡くなった。
父さんのきこりの仕事で町へ付き添ったときに、もらってきたようだった。
僕らの家は決して裕福ではなく、むしろ貧乏だったから、医者に診てもらえなければ、薬だって手に入らなかった。
そんな母が衰弱するのはごく当たり前のことだった。
父さんも僕もグレーテルも何もできず、母が天国へ天国へ近づくのをただ見守っているしかなかった。
母の死は実に呆気なかった。
少し調子がいいからと料理を振る舞ってくれた翌日の朝に眠るように死んでいたのだ。
グレーテルはわんわん大声を上げて泣いていたけれど、僕はあまり実感が湧かなくて、ただグレーテルを抱き締めてやることしかできなかった。
でも、グレーテルだけは絶対に守ってやるって思った。この太陽は月の僕が支えるんだって。
その半年後、悪魔とも呼べる今の母がやってきた。世間でいう継母。
最初のうちは女神のような人だった。父さんだけじゃなくて僕らにもよくしてくれて、父さんがその人を選んだのがよくわかった。
父さんにもどっか母さんがいなくなったことで心に穴が開いていて、その穴を埋めたのが継母なのだとわかった。
だから、凄く平和だったんだけど、半月もしないうちに、父さんに隠れて僕らを苛めるようになった。
父さんが町にいっていない日は昼食を抜きにしたり、少しでも音を立てると僕らにお仕置きをした。
特にグレーテルに対しては酷くて、その度に僕は彼女を守った。
グレーテルの代わりになれるなら、こんなの安いものだ。
でも、グレーテルはその苛めから継母を毛嫌いしている。それは致し方ない。
「ただいまー」
「どこいってたんだい!!! 昼食冷めちまうだろ!!!」
帰ると怒号が聞こえてきた。
最近は父さんの前でも僕らを怒鳴るようになった。
父さんは何も言えないで黙っている。男なのに情けない。
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