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「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
二人で素直に謝る。
母さんが生きてた頃は、少し遅くなると心配してくれた。だから素直に心から謝れたんだけど、今は強制的に謝らされてるみたいだ。
ちょっと謝るのが辛い。
それに母さんはもっとおしとやかで、こんな言葉遣いが乱暴じゃなかった。きこりの家に住む妻の癖に上品で、どこかのお姫さまみたいだった。
今は、どこかの魔女といったところかな。
グレーテルと手を洗って、僕らは席についた。グレーテルがテーブルを見つめる。
彼女の席にお昼御飯はなかった。
「な、なんで……」
妹の顔は絶望的だった。
なぜ、僕と区別をつけているんだ。つい最近までそんなことなかった。
昼食抜きのときは一緒に抜きにされていた。
震えるグレーテルが可哀想で、僕は継母を睨む。
「なんで、グレーテルの昼食がないんだ!!!」
「当たり前じゃないか! この貧乏の家のどこにそんな余裕があるってんだ!?」
負けじと言い出す継母。
グレーテルには人権すらないというのか。
ご飯すら出す必要がないと?
「ヘンゼル座りなさい」
「父さんだって何か言えよ! こんなのおかしいだろ」
「いいから、座りなさい」
ピシャリと言われ、僕の胸がズキッと傷む。
仕方なくグレーテルと一緒に席に着く。
「グレーテル、これやるよ」
「え?」
グレーテルは驚いた表情でこちらを見た。
僕は微笑んで頭を撫でてやる。
「お兄ちゃん……。でもお兄ちゃんのは?」
「僕のは良いんだよ。ほら、食えって」
そう言うとようやくフォークを持って食べ始めた。
僕もようやく満足する。それを訝しげに見つめる継母。
どうだ。僕の妹を守ってやったぞ。もう二度とこんなことをしないでほしい。
そう思いながら、昼食の時間を過ごした。
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