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ご飯を食べてから、またグレーテルが外で遊びたいというので振り回された。
少し森のなかを入って、僕は死んだ母さんの代わりに本を読んでやった。
それは僕らの生活とは程遠い、シンデレラという話。苛められていたシンデレラに王子さまが現れて幸せになるという物語だ。
グレーテルはこの話が好きなんだという。
僕はあまり好きじゃない。こんな夢を持たせてグレーテルが期待したらどうするんだって思うんだ。
「なんでこの話好きなの?」
「だって! 夢があるじゃない! 健気に頑張るシンデレラに幸せがやってくるのよ!! あー、私のところにも来ないかなー、王子さま……!」
ニコニコ満面の笑みを浮かべているグレーテルにため息をつく。
ほら、ない可能性を見い出してしまっているじゃないか。
もし王子が来たとしても、僕が必ず試験をしてやるんだ。
絶対にグレーテルを幸せにするってわからないと僕は絶対に認めない。
「王子さまが迎えにくるなら、お兄ちゃんみたいな人がいいな」
「え?」
不意に言われて驚く。
彼女は木々たちの囁きに耳を澄ましながら、続けた。
「お兄ちゃんだったら、私と遊んでくれるし、私を守ってもくれる。本も読んでくれる。私、お兄ちゃん大好きなんだ」
そう言われて、一気に顔に熱を持つのがわかった。
照れる。まさか、グレーテルがそんなことを想ってくれているなんて、嬉しかった。
グレーテルはしばらく、るんるんと森の木々と唄っていた。
それが妙に可愛らしい。
「……!?」
何だか後ろから視線を感じた。
ぞっと背筋に線が流れる。振り向くけど誰もいない。
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