#35 ゆう子

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「だ・・・大丈夫」 かろうじてそれだけ答えると、きれいな顔のきれいな瞳から逃れるように、ベッドから降りた。 服は昨日のままだ。 上着を探すと、いつものところにかかっていたので、ハンガーから取って着た。 「早良くん、迷惑かけてごめんね。」 早良くんの方を見られない。 「ゆう子さん・・・昨日俺が言ったこと、覚えてないですか?」 「・・・」 覚えてるに決まっている。 「返事が欲しいです」 早良くんの情熱に触れて、私の身体の芯が少しずつ発熱する。 このまま、彼に抱き着いて、抱きしめられて、めちゃくちゃにしてほしい衝動に駆られた。 早良くんの腕の中に飛び込んでしまえと、わたしの身体は言っている。 その時だ。 インターホンとドアを叩く音が聞こえた。 「おーい、るい!起きてるか?」 男性の声が聞こえる。 龍太くんだ。 我に返って、ドアに直進する。 私は、ここにいてはいけない。 「母ちゃんがこれ持ってけって・・・え!?ゆう子さん?」 ドアの外には、作業着の龍太くんがいた。 「・・・ごめんなさい」 一言だけ謝って、階段を勢いよく降りる。 龍太くんの目は見れなかった。 もう近づかないって約束したのに・・・・ 朝の街の中を速足で歩く。 心の中はぐちゃぐちゃ。 住宅街の桜も満開だ。 悲しいくらいに。
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