#36 るい

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ゆう子さんが洟をすする。 眼鏡を取ると、真っ赤な目で俺を見上げている。 今日は、ヒールを履いていないから、ゆう子さんのほうが小さい。 親指で、涙をぬぐって、もう一度口づける。 ゆう子さんの口の中の熱で、頭がぼーっとなる。 ゆう子さんの指が、俺がきている薄手のブルゾンを握っているのに、激しく舞い上がりそうになる。 さらに激しくゆう子さんの口内をかきまわす。 「ん・・・さ・・わらく・・ん」 息も切れ切れに、名前を呼ばれるとこのまま押し倒したくなる。 たまらなくなって、強く抱きしめる。首筋にキスを落とすと、ゆう子さんが短く震えた。 「さ、早良くん。上がってく?」 ここが玄関だということを忘れて、夢中になっていた俺は我に返った。 腕の中のゆう子さんと目が合って、二人して照れた。 「何してたんですか?」 「ゼミのレポートだよ」 ローテーブルにはパソコンが開いて置いてあった。 「邪魔してしまいましたね。ごめんなさい。」 「ううん。もう、終わりかけだから。」 ゆう子さんは、パソコンを片づける。 「あの・・・龍太が、すみませんでした」 ゆう子さんは目を見開いて俺を見る。 「龍太からも直接謝罪があると思います。許してやってください。」 泣きはらした目を伏せて、ゆう子さんは左右に首を振った。 黒ぶち眼鏡に、三つ編み、スウェット姿でも、ゆう子さんはきれいだ。 キスに応えてくれたということは・・・・ 家に上げてくれたということは・・・・ その意味を推し量り、今すぐ抱きしめたい衝動に駆られてしまう。 全部自分のものにしたい。 独占欲がむくむくと顔をだした。
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