#1 ゆう子

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いつから自分がこんなふうになったのか分からない。 都合のいい時に呼ばれて、相手に合わせて身体を開く。 目の前の男を吐き気がするくらい嫌いなのに、触れられると身体は反応してしまう。 吐き気がするくらい嫌いなのは、男じゃなくて、自分だ。 こんな扱いをされることを許している自分が情けない。 男の勧めで始めたショットバーのバイト。 器用貧乏だから、複雑で繊細美味なカクテルでなければ作れるようになった。 もう、1ヶ月も連絡がない。 自分でも、嫌というほど分かっている。 こんな関係終わらせなきゃいけない。 「お姉さん、夏のカクテル作ってよ。」 カウンター越しに、サラリーマン風の男が私を舐めるように見る。 こういう視線にも、もう慣れてしまった。 「彼氏とかいるの?」 「もちろん、いますよ」 塩対応くらいがちょうどいい。 相手を怒らせない程度にあしらうのはこのバイトを始めてから身に着けたスキルだ。 シェーカーを振るのもいつのまにか様になってしまった。 「お姉さんきれいだね。ここで働いてるの、もったいなくない?」 どういう意味よ。 ただの大学生なんだけどな。 「スイカのカクテルです」 薄い赤の液体をグラスに注いだものをサラリーマンの前に出す。 調子に乗らせない程度に笑顔を向けて、当たり障りのない話をする。 「お姉さんも飲みなよ。」 そう言われることは結構頻繁にある。 いつもは当たり障りなく、ビールを選ぶところだけど、焼酎の水割りにした。 「お姉さん、飲む人?」 「まぁ、好きな方ですね」 完璧な笑顔でサラリーマンに微笑む。 「お姉さん、ほんと美人だよね。彼氏がうらやましいわ」
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