#1 ゆう子

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「おい、ゆう子、飲みすぎるなよ」 店長が私を肘でつつき、眉をひそめてくぎを刺す。 「ほとんど水ですよ」 グラスを持ちあげて見せる。 「お前な・・・」 呆れたような顔をされてしまった。 「なんか、荒れてない?」 「別に・・・」 「またか・・・」 店長は、ため息をついて厨房へ入っていった。 バイトに来る前に起った出来事を思い返す。 男の家の前で鉢合わせたのだ。 相手は、見たこともない女で、潔い金髪のショートヘアに、モデルのように細くて長い手足をしていた。 私の姿を認めると、猫が毛を逆立てるように警戒して、男に「誰?」と詰め寄った。 男は悪びれもせず、人懐っこい笑顔を私に向けて、 「うちに来るところだった?」 と、言い放った。 連絡入れておいたんだけどな。 どうせ見てないんだろう。 女が殺意を含んだ目で私たちを見比べる。 信じられない。 家に入る前で良かった。ベッドシーンを見なくて済んだだけでもマシかもしれない。 「私、バイトだから」 踵を返し、元来た道をたどろうとした。 「おう!また、連絡する」 女の怒りが背中越しに伝わってくる。 そりゃそうだ。 私だって気持ちが分かる。 次は、この子か・・・・ もう、うんざりだ。
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