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2.
一度はそれで落ち着いたラーメンさん。黙っていれば可憐な乙女。されど花の命は短きもので、短気な彼女は、その行列のあまりにもの長さに、次第にイライラし出してまして、ぼくとのなんとも仲睦まじい小競り合いは第二ラウンドのゴングを鳴らします。
そして第三ラウンドに差し掛かる頃、ようやく狭い店内のカウンター席に通されました。危ない。危うく泣かしてしまうところでした。半ベソのラーメンさんは無言でカウンター席に座ります。
店内に漂うは豚骨の良い香り。遠路はるばる、半日掛けて本場の長浜ラーメンを食べに来た甲斐がありました。
彼女は店員のお兄さんに「ラーメン、ハリガネ二つ」と通な注文をすると、お兄さんは麺を茹でている大将に、オーダーを大声で通します。元気の良い店です。
「ふむ、雰囲気は二つ星」
何やらブツブツ言いながら、自前のラーメン帳を取り出してカリカリと鉛筆でメモを取るラーメンさん。
「今日はただラーメンを食べに来たわけじゃないんですからね」
「わーってるって。でもこれも我らがラーメン党の重要な責務なんだからね」
そう、我らラーメン党。北は青森、南は九州、日本全国津々浦々、様々なラーメンを食べ歩き日々旨いラーメンを探求する秘密結社。彼女はそれの二代目代表なのです。
初代であるラーメン天女と呼ばれた霧ヶ峰さんが集めた、元はラーメン好きの集団であったのですが、その傾国の美女とも言うべき美貌とカリスマ性からか、行く先々で同志を集め、たった数年で一大帝国を築き上げ、ニッポン全土にラーメンデモクラシーの白い旗を掲げる組織になるまで躍進しました。
それはさておき一分も待たずして、ぼくらの前にラーメンは運ばれてきました。極細麺は茹で時間が短いのです。茹で時間最小のハリガネともなれば尚のこと。
長浜ラーメンの多くは、麺の硬さを選べます。ヤワメン、普通、カタメン、バリカタ、ハリガネの五段階です。ラーメン党としては、チャラいヤワメンなど選べる筈もありません。
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