猫好きの母

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猫は不幸を持ってくる。 冬の水が、指のあかぎれを冷たくなでているらしく、ニンジンを洗いながら母は表情を険しくした。 子供ながらに、私は母の態度に一切の手ごたえを感じられなかった。けれど、子供らしくわがままに、母へ抗議する。 「猫がどうして不幸を持ってくるの? 猫がうちにいたら、私は幸せになるよ」  母はうんともすんとも言わない。今度は庖丁を手に、ニンジンの皮を手慣れた様子でするすると削ぐ。やっと口を開いたかと思えば、「今夜はカレーよ」と、あからさまな話題替えで、私の方がうんざりとさせられた。  その晩のカレーの味は、記憶には残っていない。猫がいない方が、よっぽど私にとっては不幸よ。と、当時に心の中で呟いたことは、悔し涙と噛んだ下唇の痛み一緒に刻まれ、未だに記憶に残る。
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