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暗い山中、それでも何とか目を慣らして登って行く衛士達の間を無造作に二人が抜けていく。
目の前で魅惑的に揺れる雁摩の腰に思わず伸ばしかけた衛士の腕を、隣を歩いていたもう一人の指が遮った。
むっとして見返すと、その男の目の周りが妙に黒ずんでいる。夜目ではっきりとは分からないがどうやら酷い青あざになっているらしい。
止めろと無言で首を振る男に鼻白んでふと辺りを見回せば、潰れた鼻を押さえている者や腫れ上がった頬を押さえながら歩いている者がそこかしこに居る。
ばき!と何かが倒れる音がしてふと後ろを振り向くと、地面に這いつくばる男の背中を笙絲が踏みつけていた。
「遅れているぞ。早く歩け」
ごん、と小気味良い音で男の後ろ頭を蹴飛ばすと、ふんと鼻で笑った笙絲が後も見ずに歩き出した。
その様子を見ていた周囲の足が一斉に早まる。
……頼光殿と一緒に行きたかったなぁ。
同じ思いを一様に抱きながら、黙々と男達は山を登っていた。
その頼光達が小高い山を登りきった頃には、東の空がうっすらと明るみはじめていた。
山頂には大きな門が聳えている。
「頼もう!」
門の前で頼光が大声を張り上げる。何度か呼ばわった後、脇にある小さな通用門がぎぎ、と軋んで開いた。
「……何用だ」
厳つい顔を半分だけ覗かせた男が問う。
「我らは愛宕山で修行中の山伏。若狭へ行く途中、道に迷うてしまい申した。夜道を難儀してようやくここまで辿り着いたところ……しばし休ませてはくれまいか」
用意してきた口上を頼光がすらすらと述べる。うわ、嘘くっさ~っと独りごちた綱を横目でぎろりと睨んだ。
いかにも胡散臭げに門の男が一行を見る。
「だめだ」
一言のもとに門が閉じられようとした。
「あっ待ってくれっ!」
頼光が慌てて取り縋る。と、閉まろうとした門が途中で動きを止めた。
「……中に入れろとお頭が」
男の背後から別の声がする。ち、と吐き捨てた男が不承不承門を開けた。
「忝けない」
僅かに空いた隙間から頼光がするりと身を潜らせた。一行がそれに続く。
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