第2章

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燃え上がる陣幕の前で男たちが入り乱れて切り結んでいる。 突然現われた銀色の式神に敵味方の別なく動揺が走った。人の倍はあろうかという身長、銀の胸甲に漆黒の具足。瞳の無い銀一色の目。手に持つ宝剣から稲妻が迸る。 晴明の式だという博雅の声と、式神が攻撃を加えるのが盗賊だけであることが分かって、都側はすぐに平静を取り戻した。 奇襲にうろたえていたのも最初だけ。相手の数はかなり多いものの、所詮は烏合の衆。よく訓練された都の兵士達はあっと言う間に優勢に立ちつつあった。 太陰の銀の太刀から放たれる疾風で、数人の男が吹き飛ばされた。 戦う博雅の背に向かって矢を放った男は、その矢が空中で方向を変えて戻ってくるのに仰天した。 仲間の大半を倒されて浮き足立った盗賊たちが退却しはじめる。 「晴明!」 木立の向こうから現われた晴明に博雅が駆け寄る。色のない顔と額に浮いた玉の汗に唇を噛む。 「博雅殿、大事無いか!」 返り血を浴びた頼光が抜き身を下げたまま走り寄って来る。 「盗賊どもの大半は片付けた。晴明殿のご助力感謝する」 目線だけで頷く晴明の顔色に頼光が眉を顰めた。 とりあえず少し休めと博雅が言いかけたとき、新たな鬨の声があがった。 「敵襲!敵襲っ!」 「頼光殿!」 配下の武士が駆け寄ってくる。 「うろたえるな!」 動揺する部下を頼光が一喝した。 「相手はただの賊!我らは都の兵なるぞっ!怯むな!」 博雅に軽く会釈して頼光が敵を迎え撃とうと駆け出していった。 太陰がゆっくりと向きを変え新たな敵を迎え撃つ。その刃が一閃して、飛び出した鋭利な風が盗賊を襲う。 一瞬だけ。 たたらを踏んだ盗賊達は、しかしそのまま歩みを止めない。 ―――力が効かぬ! 太陰の叫びに晴明が息を呑む。 新しく押し寄せてくる夜盗の群れに、常人には見えぬ微かな光が纏わり付いているのを晴明は認めた。 「……呪で守られている」 晴明の苦々しい呟きに。博雅がなんだと、と気色ばむ。 ―――あるじ、見つけた。 朱雀が遠く呼びかけてくる。 式と同調した晴明がその視界を共有した。 朱雀の目を通してみる世界には、様々な光に彩られた波動が踊る。 陽の光ははじける金。風の動きは揺れる緑青。草や木の淡い黄に混じって、脈動する暖かな人の橙。 ……その中にぽつりと、禍々しいまでの紅い光。 その光が、朱雀を『視』た。
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