第2章

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「戻れッ」 晴明が叫ぶのと同時。 光から飛んできた鋭い波動が朱雀を貫いた。声無き悲鳴をあげて、朱雀が消滅する。 その衝撃がまともに晴明をも打った。 「―――ッ!」 身体を折って倒れかけた晴明の身体を、博雅があやうく抱きとめる。 太陰の姿が揺らめいて消えた。博雅の耳元で女の小さな悲鳴が聞こえたような気がした。 「晴明っ!」 肩を揺すって博雅が呼びかける。 「……大事、ない」 応じる微かな声にそれでも僅かに安堵する。 「ッ!」 不意に後ろから切りかかってきた男の剣先をかわし、その鳩尾に博雅は剣の柄を叩き込んだ。 「晴明、立てるか?」 「気遣いは、無用だ」 真っ青になった顔で、それでも強気な言葉を吐く晴明に博雅が微笑む。 晴明の腕を自分の肩に回して、半ば担ぐようにしながら木立の奥へと逃げ込んだ。数人の盗賊がそれを追う。 低い潅木の茂みを背に、晴明を庇った博雅が剣を構えた。襲い掛かってくる男どもを巧みな太刀捌きで右に左にと流していく。 ……物理的な力は普通に効くようだ。 地面に片膝をついたまま晴明が冷静に考える。 新手に施されていた防御は陰陽師に対してのみ。すると目当ては。 「……俺か」 呟いた唇がきつく引き結ばれる。 目の前で敵と戦う博雅の息が荒くなってくるのに気づく。 印を結んで呪を唱えようとしたが、頭が痛んで意識が集中できない。 「くそ」 この自分が足手まといになるとは。晴明は屈辱に唇を噛んだ。 切り結ぶ博雅の後ろに長槍を持った男が走り出てきた。 「博雅!うしろっ!」 袈裟懸けに目の前の男を切り捨てた博雅が振り返る。が一瞬反応が遅く、大きく薙いだ槍の柄が博雅の脇腹に叩き込まれた。 「―――ぐッ」 博雅の身体が吹き飛んで、晴明のいる潅木の茂みに叩きつけられた。木を薙ぎ倒してその後ろに身体が落ちる。 凄惨な笑みを浮かべた男がそのまま晴明に向かってきた。 咄嗟に手元の葉を千切った晴明が、呪をかけてそれを飛ばす。ひゅ、と。矢のように飛んできた葉に喉を貫かれて男が血飛沫を上げた。 ただそれだけの事で、晴明の目の前が再び暗くなりかける。 「博雅!」 力の入らない膝を無理に動かして潅木の茂みを掻き分けて──晴明は息を呑んだ。
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