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茂みの向こうに広がるのは、ぽっかりと開けた空間……夕闇の迫る空。
―――崖、だったのか!
「博……」
名を呼ぼうとした唇が震えて、胸が冷えた。
「……晴明」
足元から声がして、晴明は慌てて屈み込んだ。崖の縁、藤蔓にぶらさがった博雅が見上げている。
「……博雅」
膝から力が抜けたのは体力を消耗したせいばかりではない。
「命冥加なやつだ」
左手で傍らの枝を掴み、伸ばした右手で博雅の手首を掴む。
笑いかけた博雅の顔が、晴明の背後を見つめて強張った。
「晴」
明、と言うより早く、ざあっと音を立てて周囲の笹の葉が舞い上がった。
背後に忍び寄っていた夜盗の刃が一閃するのと同時に。矢のように飛んだ夥しい数の細い笹の葉が男に突き立った。
博雅がこくりと唾を飲み込む。
刀を握ったまま、ハリネズミのようになった男が仰向けにどうと倒れていった。
「晴明」
博雅の笑みに、しかし答えない晴明を訝しむように見上げる。
「……晴明!」
その手首からひとすじ、伝い落ちてくるのは、血。
「……く」
博雅に引きずられて、ずるりと晴明の身体が崖から乗り出した。
「晴明、手を離せッ!」
無言で晴明が唇を噛む。
枝を握る指も切られた背中も感覚が無い。ただ博雅の手首を掴む右手だけが熱かった。流れる血で指が滑る。
「離せっ!」
博雅が必死で叫ぶ。
その時。背後でどおんと地鳴りがした。
金色(こんじき)の光が辺りを照らし出す。見上げてくる博雅の顔も一瞬金で彩られた。
―――式を使うものの、気配。
晴明の瞳を絶望に似たものが掠める。枝を掴んだその指が緩む。
「晴明ッ」
ひろ、まさ、と。晴明の唇が動いた。
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