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ことりと音がして。
晴明がはっと天幕の入り口を見透かす。
「遠慮は要らない。入ってくるといい」
うなじに唇を落としたまま保憲が言う。晴明が慌てて身を振りほどいた。
おずおずと垂れ幕を上げて入ってきたのは博雅。あられもない格好の晴明に目を見張る。
常になく上気したその目元から視線を逸らした。
「何か御用か?」
晴明の背中に薬草を貼り付ける作業に戻った保憲が、振り向きもせずに問う。
「これからの事をご相談するのに来て頂けないかと、頼光殿が……」
「中将ともあろうお方が走り使いですか」
揶揄する響きに少し顔を赤らめた博雅が、しかしきっぱりと答える。
「晴明の傷が気になったものですから」
その声音に保憲が博雅を振り仰いだ。
真っ直ぐに見つめてくる淡い色の瞳。
無言で視線を逸らした保憲が晴明の上半身にさらしを巻いた。
「ほらよ、終いだ」
ぽんと軽く背中を叩いて立ち上がる。
「評定に来て頂けますか?」
博雅が重ねて問うた。
「しょうがねえなぁ……」
不承々々といった顔で保憲が答える。
「私も行きます」
単を着て括袴を履いた晴明が立ち上がる。狩衣を着るのに博雅が手を貸した。
「動いてもいいのか」
「もう大丈夫……心配かけたな」
先刻よりは格段に良くなった顔色に博雅がほっと吐息をついた。
「そうか。良かった」
言いながら狩衣の首の蜻蛉(とんぼ)を受緒に通してやる。
すまん、と晴明が眼差しで言うのに、博雅が微笑を返した。
「痛覚を断つか?針はあるぞ」
何気ない保憲の言葉が、痛みはまだあるのだと博雅に気づかせる。
不安に揺れた瞳に晴明が宥めるような笑みを向けた。
「いえ、我慢できないほどではない。感覚を鈍らせる方が今は危険です」
「ま……そうだな」
保憲が横目で博雅を一瞥した。
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