第3章

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外に出ると、式が二体すっと現れた。保憲の背後にぴたりとつく。 一人は先刻助けられた美女。きつい顔立ちの中にもどこか甘やかな風情がある。 もう一人も女の形。顔立ちは整っているが、しかし雰囲気は猛々しい。 肩までの黒い蓬髪を、額に巻いたこれも黒い幅広の布で止め、首には象牙の玉や金泥に光る鎖を巻いていた。袖の短い黒い上着は肩が剥き出しで身体の線がくっきりと出ている。 短い袴からすらりと伸びた足に博雅が目のやり場に困った顔をした。 短髪の美女がくすりと笑う。 「変わった式をお連れですね」 式神をつくづくと眺めて晴明が言った。 「新羅で見つけてきた」 「しばらく姿が見えないと思ってたら、そんな所へ……」 晴明が呆れた声を出す。 「神霊ではないようですが……死霊ですか」 「客死鬼(かくしき)というやつだ。異国で心を残して死んだ霊が物や場所に憑く。それを見つけたんで式にして連れて来た」 保憲が短髪の式の肩にそっと手を置く。女が煙るような眼差しで保憲を見上げた。 「雁摩(カリマ)に笙絲(フェイト)。雁摩は天竺の生まれ。笙絲はもっと西、羅馬(ローマ)の兵士だっだそうだ」 「女性が……戦うのですか」 博雅が吃驚した目で式を見やる。笙絲が無表情に見返した。 「能力や資質に基本的に男女差は無いと思うぜ……女のほうがツヨイ時もあるしな」 保憲が雁摩の耳元に唇を寄せて何事かを囁いた。意味ありげなくすくす笑いがそれに応える。 「虫や植物ばかり使ってないで、女の霊を式に使うのも悪くないぞ」 「……考えておきます」 吐息交じりで答えた晴明が目線で博雅を促して、暗闇の中へと歩き出す。 すいと伸ばされた指に手を取られて博雅が一つ瞬きをした。 「お前は夜目が利かないだろう」 「あ……すまない」 「ちゃんとついて来い」 素っ気ない言葉とは裏腹に優しく指を握られて、博雅が少し目を伏せる。 二人の後ろを歩く保憲の面に、思わし気な表情がちらりと掠めた。
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