第4章

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その夜更け。 真夜中の山道を山伏の一行が歩いている。 道なき道……月は天高く晧晧と照ってはいるが、生い茂った梢に遮られて足元は覚束ない。 「……しかしこれって、飛んで火にいるなんとやらじゃないですか?見え見えですよね」 山伏に扮した一人―――渡辺綱(わたなべのつな)が言う。 「囮だからな。見え見えでいいんだよ」 やや息が上がっている、こちらは頼光だ。 「しかしいくら囮だと言ってもたったの五人……しかも一人は例の近衛府の」 ちらと後ろを歩く博雅を見る。 「悪いお方じゃない。そう言うな」 頼光が宥めるように言う。 「いざ真剣勝負!となったら役に立つんすか。笛の腕がいくら良くってもねぇ」 あくまで綱は疑わしげだ。 「剣の腕も確かだよ、俺が保障する。それにいくら主上の勅命とは言え、囮だと知った上でついて来る度胸もたいしたものだ」 そりゃまぁそうですけど、と。指名されて半ば強制的に囮役となった綱が呟く。 「俺達は屋敷の後ろに本隊が到着するまで、とりあえず注意を引きつけてればいいだけさ」 「ばればれじゃないですか?あんな大軍で動けば」 綱が情けない声を出す。 「本隊の方は保憲殿と晴明殿が隠行の術をかけてくれている。例の式とやらもついているし」 式、と聞いて綱の表情が変わる。 「あーあ、俺もあっちに混ざりたかったっす。カワイイですよねぇ、彼女達……こっちときたら色気も何も」 グチグチと続く綱の言葉に、ついに頼光の額に青筋が浮かんだ。 「お前それでも四天王と謳われた武官かッ」 「でっ」 そんなに思い切り殴らなくても……といきなり頭をぼかりとやられた綱が涙目になった。 「お前は、大体武官をなんと心得ておる。そもそも衛門府というのはだ……」 ……また始まったよ。頼光殿のお説教。 自ら招いた事とは言え、道中みっちりとタコ耳のお説教を食らう羽目になった綱だった。 一方屋敷の裏手からじわじわと山腹を登って行く大軍の中に、ひときわ目立つ人影があった。言うまでもなく雁摩と笙絲だ。 闇を全く気にもせずに、軽やかに歩いていた雁摩がふと目を上げる。 「……太陰か」 ―――後ろが遅れている。 ふわりと髪を揺らす風に笙絲が頷いた。
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