第1章

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朝議は粛々と進み、既に決められていた討伐隊の構成員や日取りなどが右大臣より上奏される。 「お前も加わってくれると心強いが」 そう言う師輔に晴明が頭を下げて答える。 「陰陽師の役割はこれまで……私は荒事には向きませぬ」 表情を消して言う晴明に、まあいい、と師輔が苦笑いした。 「晴明!」 帝が退出して御前から下がってきた晴明に博雅が詰め寄った。 「おぬし、主上から頼まれていたのか!」 まあな、と晴明が軽く返す。 「お前な──」 「博雅殿!」 言いかけた言葉を背後からの呼びかけで遮られた。 振り向くと笑いかけてくる見知った顔は、清和源氏満仲の長子、源頼光(よりみつ)だ。 「主上から大江山へ行けと勅命が下されました。僭越ながら討伐隊を任され申した」 「それはそれは。頼光殿ならば主上も安心でしょう」 素直に喜ぶ博雅に、頼光の無骨な顔にも笑みが浮かぶ。 「先ほど賜りました討伐隊の録の中には、博雅殿のお名前も入っておりましたよ」 「本当ですか!それでは宜しくお願いいたします」 博雅が頭を下げる。 「お主も行くのか?」 二人の会話に割って入った晴明に頼光が怪訝な顔を向けた。こちらは?と博雅に目で問うてくる 。 「ああ、すみません。これは陰陽師寮の安部晴明。晴明、こちらは源頼光殿だ」 「お噂は……かねがね」 どこか警戒した顔で頼光が晴明に会釈をする。 「今回の酒呑童子征伐にはご参加頂けないとか?」 え、そうなのか?と博雅が晴明の顔を見る。 「……行くさ」 「そうか」 晴明の答えに博雅の顔がぱっと明るくなった。頼光が軽く頭を下げる。 「それではどうぞ良しなにお願い申す。博雅殿、宜しければ少し打合せを」 「はい。晴明、また後でな」 去っていく二人の後姿を見送って。 「行くのか?晴明?」 後ろからかけられた声に、晴明が肩越しに振り向いた。 「先ほどは行かぬと申していたのではないか?陰陽師の仕事はこれまでと?」 笑いを含んだ声は兼光。からかうような表情が浮かんでいる。 「行きますよ……勅命ですから」 感情の無い声で晴明が答えた。 「主上を主上とも思わぬ男が、よく言う」 頭を一つ下げて去って行く晴明の後姿を、面白そうに兼光が見送った。
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