第2章

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そうと決まれば善は急げと。数日の内に討伐隊が調えられ、酒呑童子の拠点があると云う大江山へと出発した。その数約一千騎。 目的の大江山から山一つ離れた所で、征伐隊はいったん足をとめた。 炊(かしき)の煙を上げないようにとの注意を行き渡らせた上で、小休止に入る。 まだ日は高いが山中は薄暗くひんやりとしている。都よりも季節が早く進んでいる山の木々は葉を落とし始めていた。山腹の少し開けた所に評議のための陣を張る。 「とりあえず物見を放とう」 主だったものを集めた陣の中で、皮の甲冑に身を固めた頼光が言う。 「土地勘のない処で大軍で動くのは賢明ではない」 そうしようと皆が頷きかけた時。 「面倒だ。首魁の首を取ろう」 いきなりかかった声に一同が振り向いた。 いつの間にそこにいたものか。白い衣に紫紺の狩衣を重ねた晴明が陣の入口に立っていた。 「晴明!」 博雅が立ち上がる。 「ずっと姿が見えなかったから、どこに行っているのかと思っていた」 「ちんたら歩くのは性に合わん」 傍若無人に言ってのける晴明に、周囲の者が眉を顰めた。 「晴明殿には、どうなさるおつもりで?」 言葉だけは丁寧に、しかし眼光鋭く頼光が問う。 「式を飛ばして、酒呑童子とやらの命を貰う」 さらりと言う晴明に周囲のものがしんとなる。その目の前にぱさりと絵図が置かれた。 「酒呑の屋敷の見取り図とその周囲の地形だ」 おお!と一同が声を上げる。 「さすがは当代一の陰陽師!」 「首領が倒れた騒ぎに乗じて一気に屋敷を襲うといい。ここまで来たのだ。お主達も手柄のひとつも立てねばな」 「晴明!」 微かに含まれた皮肉な調子に頼光が目を細める。博雅が慌ててたしなめた。 軽く一礼して陣を出る晴明の後を博雅が追う。 本陣が見えない処まで、落ち葉を踏みしめながら木立の中を分け入って。晴明が足を止める。 紅葉を透かす木漏れ日の中で印を組んだ。懐から出した折鶴を掌に載せる。 ふ、と息を吹きかけるとそれは鳥に姿を変えた。 「行け……酒呑童子が首、貰い受けてこい」 ひゅんと風を切って鳥の姿が消える。常人には見えないその軌跡を晴明が目で追った。
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