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花を生けた後、楓君が思い出したように取り出したのはネクタイピン。
それをそっと備え、静かに手を合わせた。
言葉にしなくても分かる。楓君が今、おばあちゃんになにを伝えているのかが。
私も隣で静かに手を合わせた。
あの日からどんなにふたりでおばあちゃんたちの思い出の品に触れても、二度とふたりの過去の記憶を見ることはできなかった。
それは少し寂しくもあったけれど、今でも鮮明に覚えている。
楓君と見た、ふたりの幸せだった日々も想いもすべて。
夕陽が顔を覗かせてきたお墓からの帰り道、手を繋いで歩く中、楓君はふと言い出した。
「なぁ、未来の話をしないか?」
「えぇ、なに急に?」
なんの前触れもナシに言い出した楓君の顔を見上げ、覗き込む。
「じいちゃんたちが話していたみたいに、俺たちも未来の話をしようよ。例えばそうだな、子供の名前とか」
「楓君……」
「名案だろ?」と言って笑う彼につられ、私もまた笑ってしまった。
未来の話をしよう。
私と楓君の未来の話を――。
それはきっと遠くない日々の話だから。
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