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電話を切った手をそのまま思いっきり上げてバンザイした。落ちていた気持ちが一気に上がる。
桐谷が手伝いに来てくれるという連絡だった。
正直に言って今朝発注された仕事を締切りまでに仕上げる自信がなかったから凄く助かるけど、急にどうしたのだろう?彼自身の仕事も手いっぱいの筈なのに。
電話から二十分程でインターフォンが鳴った。
モニターを覗くと桐谷の姿。
「どうぞ入って」
解錠を押してから玄関の鍵を開けて事務所の部屋に戻ると、程なくして玄関ドアが開く気配がした。
「お疲れ!美咲」
いつもの爽やかな笑顔で入ってきた。手には有名スイーツ店のロゴが入った紙袋を下げている。
期待の眼差しに気付いたのかクスッと笑うとそれを私のほうに差し出した。
受け取った紙袋の中を覗くとリボンのついた白い箱が入っていた。大きさから推測するとおそらくワンホールのケーキ。中身には思い当たる物があった。
「もしかして……ミルクレープ?」
お互い人差し指を立てて“ミルクレープ”の部分は同時で綺麗にハモった。
覚えていてくれたんだ。
以前、飲みに行くために出版社で彼の仕事が終わるのを待っていた時に、雑誌を見ながらしきりに美味しそうだと騒いだ事があった。
下心がなくてもこういう事が出来きちゃう男はモテるに違いない。いい男だと思うけどなぜか食指が動かない。
まあ、お互い恋愛感情がないから楽でいい。
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