scene 1

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「その動揺ぶりは何かあったんだな?」 「た、大した事はないよ。 編集長は何か言ってた?」 しどろもどろになりながら、溢れたコーヒーをティッシュで拭く。わかりやすいにも程がある。 「俺は詳しく知らないけど、編集長が斉藤先生と電話で話したすぐ後にヘルプに行けって言われたからさ」 その話の流れから推測すると、眠ってしまった事が関係ありそうだ。 せっかく忘れかけていた失態が蘇って軽く溜め息をつく。どんなふうに話が伝わってるのか……。 頭を抱える私を見て彼は興味津々といった顔だ。 「何があった?」 二人しかいないのに声のトーンを低くして神妙な口ぶりとは裏腹に顔はニヤケている。 「先生のベッドで爆睡した……しかもイビキかいて」 「ぷっ!ひでえ。 でも何でベッドなんだよ!そういう関係なの?」 「ぜ、全然そんな関係はないから。 用事を頼まれてちょっと入っただけ」 随分と端折ってはいるが嘘はついてない。 ベッドという単語はまずかったかもしれない。 いくら桐谷でもアレは秘密にしていたほうが良さそうだ。 後で斉藤先生に連絡して探りを入れよう。 編集長に何て言ったのだろう? 「編集長の耳に入ったのかな?」 「普通に考えたら、そうだな」 「はぁー…」 ソファにもたれて、大きく溜め息をついて天を仰ぐ。 そんな私を見てニヤニヤ笑っている。性格がいいと言ったの間違えだった。いい性格してるに訂正する。 「……ミルクレープもう一つ食べようかな」 「いいけど、腹一杯になって眠くなったとか言うなよ?寝たら放り出して帰るからな」 とか何とか言っても彼は優しいから結局は最後まで手伝ってくれる。 「寝てる間に小人が仕事をしてくれる童話あったよね?その小人欲しいね」 「俺は小人じゃないぞ!」 深夜の事務所に二人の笑い声が響いていた。
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