scene 2

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先生には連絡出来ないまま数日が経過していた。あの日の失態を自分から蒸し返すのはなかなか勇気がいる。 それと共に蘇るキスの記憶。 先生の事を想う度に自然と指が唇に触れる。 あの感触を想い出すと胸がキューッと締めつけられるようで戸惑う。 この感覚は何?十代の恋愛じゃあるまいし。 再現の相手役のせいで好きだと錯覚してるだけだ。 きっとそうだ……。 スマホの呼び出し音で我に返って見ると、珍しくプライベートの方が鳴っている。 私はプライベートの電話には滅多に出ないから、友人は大抵、仕事用のスマホに掛けてくる。 登録されてない電話番号だ。 誰だろう……一瞬、躊躇して出る事にする。 「はい」 『美咲さん? 俺の事、覚えてますか?』 いきなり名前を呼ばれた。若い男の声。新手のナンパ型セールス電話だろうか?どうして私の名前を……。 何も応えないでいると、相手が続けて話し出す。 『神崎悠人って言います。前に電車で忘れ物を届けた……』 「あー! あの時は本当にありがとう。 連絡貰って良かった。きちんとお礼をしたいと思っていたから」 顔に見惚れて名前を訊き忘れていた事を思い出した。確か、何か困った事があったら連絡してと名刺を渡していた。 『これから飯でもどうですか? ドタキャンされて時間余っちゃって』 「行きたいけど、まだ仕事が終わらなくて直ぐには出れないの」 『後どれくらいですか?少しなら待てますけど』 忙しいけどお礼をしたいから待てるなら仕事の方は何とか調整してみようかな? 「……じゃあ、私の事務所に来て待ってる?この前渡した名刺の住所だから」 『わかりました。行きます。 それじゃ後で』 「はい、後でね」 思いがけないお誘いを受けて浮き足だす。急ぎの仕事だけ早く終わらせてしまおう。 たまには仕事関係者ではない男と出掛けるのも気分転換になって良いかもしれない。 そうと決まれば急いで片付けなければと再び仕事に取りかかった。
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