黎明

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だがそんな素人の放った弾丸は運悪く急所だったようで胸部の血が止まらない。 ああ、これが俺の最期か。 雨に打たれて身体が溶けるが如く、俺という黒く深い闇が世界に還元していくような錯覚、闇夜に産まれ、闇夜に馳せ、闇夜の中でしか生きられなくなった男が光輝に憧れ足を踏み入れたが故の結末。 願望は叶わぬからこそ光を失わぬ。そこに触れてしまえば己は形を保っていられない。 傍らに子猫が血を垂れ流して横たわっている。 猫何をしている? 俺はこれまで数え切れない程の悪行を働いてきた。これは当然の報いだ。 だが猫よお前は無関係だろ、巻き添えで逝ってくれるな。 伸ばした手は虚空をさ迷い子猫に触れる事はない。 おかしい  …そこには何もない。 「ああキリヤさん、またこんな所に居て、風邪引きますよ」 病院の中庭にあるベンチに腰掛け日向ぼっこをしながら小説を読み耽るそこな男に明朗なる声音で呼び掛ける看護師の女性がいた。 「風邪を引くなんてとんでもない、ここはとても暖かいよ」 彼女は男の隣に腰掛け心中を忖度(ソンタク)する。 世話焼きな彼女には奔放な男の性質を放っておけないのだろう。 その甲斐あって狷介(ケンカイ)だった男は今や彼女とは昵懇(ジッコン)の間柄である。 「その小説いつも読んでますね どんな内容なんですか?」 「とある男が己が化身と出会い、無くしたモノを取り戻す話さ」 彼女は険しい表情を曝す。 「何だか難しそう」 暫くそうして彼女は男の胸中を慰めた後、本来の業務に戻るべくベンチから立ち上がる 「では私は先に戻りますので、昼食までには戻って下さいよ」 看護師の背中を見届け男は左肩と胸の傷跡をなぞる。 彼女にとって男は世話を焼く対象であるが男にとってもまた彼女は懐子(フトコロゴ)である。 男はまた残り僅かな小説に意識を落とす、これももう読み終わるな。 さて、新しい物語を読むとしよう。 終り
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