黎明

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変質は一刻と侵攻し次第に降雨へと変貌した。 子猫を連れ立っていた俺は雨を防ぐ為に軒下を求め裏道に入る。 しかし、そこにいた先客に足を止める。 血気盛んなチンピラが三人、今正に少年に危害を加え、金品を剥ぎ取らんとしていた。 普段の俺なら看過していただろう。事実俺はそれから目を背けた。しかし雨に濡れる子猫は俺に訴えかけるように潤んだ瞳を見せる。 こんな行為は町の至る所で行われている、それ一つ一つを相手にしていては際限がない。 俺は己に言い聞かせるが、 「おいっ もうその辺でいいだろう」 少年は踞り、ならず者共は次なる標的を割って入った愚人へと転換する。 端から言葉で解決するとは思っていない。だが三人相手に左肩のハンデで分が悪い。 腰のホルスターに手をかけ掛けたが、ハンデがあるといえど相手は高々チンピラ、俺とは潜り抜けた修羅場の数も質も大いに異なる。 俺は目前の男が振り上げた拳を苦もなく避けると急所である喉仏に一撃を加える。 ここに打撃を加えると相手は呼吸が困難になる、男はもがき苦しみ膝をつく。 牽制し、これで引き下がってくれれば良かったが、残りの二人はたじろいだのみで引き下がる気はない。 精一杯の虚仮威(コケオドシ)も通じず愈々(イヨイヨ)やるしかなくなった。 殴り蹴り上げんとする攻撃を躱(カワ)し相手の懐や急所を狙い、力ではなく技量で圧倒し戦局は優勢に立った。 左肩の傷が思いの外響き、少しは反撃を受けたがこの程度は些事だ。 ならず者共は失せ、被害を受けていた少年も立ち去った。 後に残りけるは只管に雨に濡れる清々しい男の姿だけ。 振り返ると子猫がびしょ濡れに成りながらも俺の勇姿を見届けていた。 雨が、水が嫌いなんだろう。猫とはそういう生き物だ。 なのにずっと見守っていたのか。 俺は小さき刺客を抱え上げる。敗けたよ、まさか本当に俺の心を刈り取るとはな。 「おいっ死ねぇ」 咄嗟の出来事であった。前方に飛び出すは先程のチンピラ共とはまた別の見知らぬ男で、罵声を浴びせるのと同時に銃を発砲する。 それは抱えた子猫を貫通し俺の胸部を血に染めた。 倒れ込んだ俺を最後まで見ることもなく男は去っていく。 素人め、余裕があるなら止めを刺せ、そして死を見届けろ。標的には最低でも二発は打ち込め、挙げ句まだ気取られていない大事な初弾を報せるとは何事か。
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