黎明

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この町には夜がよく似合う。 否、俺が夜でしか生きられない人間というだけだ。 この町には陽の下には決して現れない醜悪な闇が巣くっている。 悪行を働くクズ共がこの町に跋扈(バッコ)し汚している。 ただのチンピラから有力者に至るまで、ありとあらゆる所が汚染され、腐食の根が蔓延(ハビコ)る。 誰も奴らを止めようとはしない。そんなことを考えるのは正義を名乗る偽善者かただの愚か者のどちらかだ。 俺は廃工場の屋上から狙撃用ライフルを構える。 距離、風向き、全てを計算しトリガーに指を掛け息を止める。 町の音も、風の音も、虫の鳴き声も、何も聞こえない静寂に包まれ、まるで実態を感じないトリガーを引く。 軽くそして重い、引いたあとに感じるその感触。 夜の空に響き渡る乾いた銃声はこの町をまた一つ闇へと落とす。 今宵もまたクズが一人減った。 俺は行き付けのカフェで朝食を取る。 昨晩人を殺めたことなど、まるで無かったかのように、周囲の誰もがそんなことを知りもせず、知ろうともせず、陽の出る内は面を笑顔に染める。ただ一人俺を除いては… 食後のコーヒーを飲んでいる頃、オーナーから合図が入る。これを待っていた。 俺は重い腰を上げ、カフェの片隅に設置された電話を取る。 低く荘厳(ソウゴン)ある聞きなれた声。 「昨晩もご苦労、報酬は振り込んでおく。 急で悪いんだが次の依頼を頼みたい。」 クライアントからの要望に必要最低限の返事をし伝えられる概要を頭に叩き込む。次も前回と大差ない内容、標的が変わっただけだ。 用件が終わると、ここで命のやり取りが行われていることなど露も知らないオーナーに礼というほどでもない合図を送り、勘定を済ませまだ昇ったばかりの陽を仰ぐ。 陽の光は苦手だ。俺という人間を浮き彫りにし、ジリジリと責め立てる。 何も賛同など求めていない。俺のしていることは正義ではない。悪に雇われ、悪を葬る、悪でしかない。そんなことは解っている。 だからそんなに俺を責め立てるなよ。 町中に一人不釣り合いにふらつく俺は闇を求めて裏道に入った。日陰にいる内は心が安らぐ。 しかし、そこにいた先客に足を止める。 血気盛んなチンピラが三人、地面に踞(ウズクマ)る男を囲み手には札束を持っている、何が行われているかは明白だ。
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