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俺はこちらを向くチンピラ共など意に介さずタバコに火を灯すと、そいつらは俺が関わらないと判断しその場を立ち去った。
程なくして踞る男も俺に厭悪(エンオ)の目を向けた後にゆらりと立ち去る。不遜な態度だ。他人が必ず助けてくれるとは限らない。
彼奴(キャツ)らに抗えないのは、お前が弱いからに他ならないのだから
俺は寂寞(セキバク)の中でタバコを燻らせ一時を満喫する。
ふと、視界の端で動いた白いモノに反射的に腰の銃を握った。
見るとただの子猫だ。
他に誰かいやしないかと警戒し、誰もいないことを確認すると銃から手を離した。
俺の素性は誰にも知られていない、クライアントにさえ顔は明かさないし、仕事中においても十分に警戒し、それでも見られた場合はそいつにはこの世から退場して貰う。
そもそも俺の主流は狙撃で相手に見られる状況事態そうは起こらない。
それでも俺を狙う輩がどこかにいるのではないかと常日頃警戒しホルスターに銃は欠かさない。
俺が陽の下を嫌うのはそれも原因の一つである。いくら人の往来があったとしても狙うとなれば無関係で殺りに来る、その上で目立つとあらば誰が好き好んでいようか。
賑わいのある所よりは物静かな方が小さな変化や人の気配に気付きやすい。
俺は小さな刺客を見据えた。その小さき爪で俺を殺るつもりか?
見詰め続けると子猫もじっとこちらを見詰め返す。下らない争闘だ、ただの子猫相手ににらめっこか。
タバコを携帯灰皿に押し込めまた地獄の様な陽光に身を投げる。
俺が根城としている人里離れたボロいアパート、それでも大きさはそれなりにあり人相の悪い奴らが何人かは居るらしい。
互いに馴れ合いなど求めない連中だから隠れ蓑としては最適だ。
俺の部屋は最上階の五階、外を見下ろせばそこな様子が判りやすいし、いざ敵が襲いに来たとしても返り討ちや逃走の準備が取れる。
こんな稼業をしている以上、生きることは命懸けだ。僅かなミスが死へと繋がる。
エレベーターが来るのを待っている間、振り返るとまだ小さき刺客は俺を付け狙っていた。本当に俺を殺るつもりか?
しっしっと追い払う動作をすると近隣の年配の女性が怪訝そうにこちらを窺う。あんたに送った合図じゃない。
当の子猫はまるで微動だにせず、俺は逃げるように到着したエレベーターに乗り込む。
さすがに中までは来ないか、懐かれても困る。
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