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弾丸は俺の左肩を撃ち抜き、間髪入れずに右手に持っていた拳銃から二発の返礼を致す。
そのどちらもが切り開かれたガラスの裂け目から頭部に着弾したように見えた。
そのまま一息に車まで接近し標的たる男の死を確認する。
これにて任務は完了。
ライフルを回収し、薬莢を回収し、あとは立ち去るだけだった。その程度の簡単な作業であったがそれすらも容易に為し得ない程今の俺は気が動転していた。
先の狙撃ポイントで回収作業をしていると気配も消せぬ未熟者がこちらに気を向けていることを悟り、直ぐ様銃口を向ける。
果たしてそれは標的、否、元標的の仲間であったか、否、小ビルの階下へ逃げた愚か者を追い詰めると、それはまだ年端も行かぬ小童だった。
目撃者は抹消するのが俺の流儀というか徹底していたことだが小童を手に掛けた事はない、これまで小童が迷い込むような事など起こらなかったからだ。
銃口を向けるその面には戦慄の色が伺える。
俺は傷のせいか高揚が抑えられず、何が正しいのか判断がつかなくなっていた。
撃てば禍根はない、だが撃てば奈落へ落ちる自信がある。
一刻、短くも長い睨み合いは行方を暗ませていた子猫が戻ってくることで終息した。
足に体を擦り付け俺の心は浄化され、引き金に掛ける力を弱めていく。
「行け、ここで見たことは忘れ決して口外するな」
小童を見送り、容認しがたい感覚が込み上げる。
今宵だけでどれ程のミスを犯したことか、狙撃を失敗し、手傷を追わされ、小童に目撃されてしまう。
目立たぬように行うのが暗殺であり、豪快に衝突した車に死体を捨て置く事は違う、剰(アマツサ)え目撃者に憐憫(レンビン)を掛けるとは何事か。
最初から俺には邪念があった、それが狙撃のミスへ繋がり数珠繋ぎにミスを連発する。
後悔先に立たず、今は余計な目撃者が増える前にここから立ち去ろう。
「昨晩は手こずったようだな、トラブルでもあったか」
行き付けのカフェの片隅でめぼしく失態した俺にクライアントはここぞとばかりに責め立てる。
「問題はない、任務は完了した」
「問題はないだと… 昨晩銃を持った男を目撃したと言いふらす少年がいるようなんだが、心当たりは…」
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