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あの小童、約束を守らなかったな
「俺とは無関係だ、虚言か、他の事柄だろう」
「ふぅむ、まぁ良い 私は君がどのように仕事を熟すかは指定しないし詮索しない。
だがこれはビジネスだ、私は一流としか組まない。
君は一流から外れてくれるな」
「俺は自らを一流と思ったことはない、完璧に熟すよう心掛け、それが結果として伴っただけ
結果が全てだと言うなら成る程一流かもしれない。」
「しかしながら、一流というのは如何なる時に置いても期待には答えるものだ、私が仮に今晩にでもすぐに次の依頼を頼めば、君は首を縦に振ってくれるかな」
刹那、俺は左肩の傷を懸念してしまった。
利き腕が健在であればライフルを撃つ事は出来るだろう、だが何事にも万全を期すものだ。不足の事態にこの手傷で儘(ママ)なるものか。
こんなものは只試されているだけだというのに愚かにも精密に思考を巡らせた。
「 …問題はない」
「無理をするな、今の君はいつもとは違う 君はそんなに饒舌ではなかっただろう?
夕刻また連絡をする、その時に改めて君の答えを聞こう
期待しているぞ」
通話を終えて受話器を下ろし、暫し哀れな己を侮蔑する。
何が問題はないだ、俺の心の内など容易く見抜かれている。身体の傷よりも尚心の損壊の方が甚だ惨たらしい。
閉塞していた筈の心から零れ落ちる感情を、これ以上流してなるものかと左肩の傷口を握り痛みで誤魔化す。
この痛みは俺の失態、これ以上のミスは命を落とす。
店を出ると待ち惚けを食らっている猫に今日もタッパーからミルクを与える。
まんまは後だ、この前はベーコンをやったがどうやら猫にはあまり良くないらしい。
瓶に残ったミルクを飲み干し、夕刻までの時間潰しを図る為、きらびやかな町並みを猫を連れだって闊歩する。
またあの公園までやって来た。ここから見える景色が脳裏について離れない。
これまで闇夜の中でしか生きられなかった俺が陽光を一身に受けて心地よいと感じる。
また適当に選んだ猫用の缶詰めを足元に置き紫煙を吐いて暫く、ボランティアと思われる若女が唯一人、ゴミ袋を携え公園の景観に努めていた。
タバコに缶詰めとゴミに成りそうなものばかり持ち込む愚人に気付き、視界の端でこちらを見ている。
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