一章

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「……魔王よ。隠れているつもりなのだろうが、俺にはそんなものは通用しないぞ?」 学校を飛び出し、ブツブツと呟きながら道を歩く。 道ゆく人は、ある者は気持ち悪いものを見る目で、またある者は可哀想なものを見る目で俺を見てくる。 まあ、そんな目があってこその一匹狼と言うべきだろう。 くっ……右目が疼く……! 右目を抑えながら俺はフラフラと道の真ん中に出る。 その時だった。 目の前に、車が迫ってきた。猛スピードで、ブレーキを踏んでいるようだが俺の前で止まるとは到底思えないスピードである。運転手の驚愕に目を見開く顔がよく見える。空気を劈くクラクションの音が耳にこだまする。すべてがスローモーションのように感じる。もちろん、俺の動きも。 やばいやばいやばいやばい避けられない! 俺はこの後に及んで恐怖で足が動かなかった。否、恐怖ではない。邪眼が俺の動きを止めているのだ。 きっとそうだ。俺は選ばれた人間だからな、うん。 「桜ーー? 今日の夜ご飯はカツ丼よー」 何故か頭に母の声が響く。一週間前の母のだ。母の満面の笑みが頭に浮かぶ。 これが走馬灯か? うわ、これはマジで死ぬやつだ。 「桜ーー?今日の夜ご飯はヒレカツ丼よー」 六日前の母。 「桜ーー?今日の夜ご飯はロースカツ丼よー」 五日前の母。 「桜ーー?今日の夜ご飯はソースカツ丼よー」 カツ多いな!? つか、他になんか思い出ねぇのかよ! 俺の人生ろくな思い出(メモリー)ねぇな! そう心の中で叫ぶと同時に強い衝撃に襲われ俺の体と意識は吹っ飛んだ。
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