目覚まし時計

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目覚まし時計

 子供の頃、たまたま広告チラシで見かけた目覚まし時計に心を奪われ、お年玉貯金などで貯めたお金でそれを買った。  以来、もう二十年近く使っているのだが、さすがに古くなり、最近は目覚ましの機能が働かないことがたまにある。  それで二度程会社に遅刻したが、叱られている時は『目覚ましが動かなかったから』と時計を呪ったけれど、どちらも後で、遅刻してよかったと思うことが起きていたことを知った。  一度目は、いつも利用しているバスが事故に遭い、死者こそ出なかったが、乗客が多数怪我をしたというニュースを見た。  二度目は、通勤途中にほぼ毎日コンビニに寄るのだが、客同士の乱闘が起きて、巻き添えで何人か怪我をしたらしい。  どちらも遅刻をしなければ、俺も被害を受けている状況だ。  とはいえ、遅刻はよくないことだけれど、回数的にはたった二度。たまたま遅れた日と事故や事件が重なっただけ。  そう思うのが当たり前だろう。  でも、もしかしたら違うのかもしれないと、昨夜の騒ぎの後から思っている。  昨夜、真夜中にいきなり目覚ましが鳴り響いた。  こんな時間にどうして鳴るんだと、不機嫌丸出しで目覚ましを止めた。その直後、空気のきな臭さに気がついた。  部屋の外へ出ると、夜目にもはっきりと、煙で空気が白く濁っているのが見えた。 「火事だーーー!」  俺の叫びにマンション中が反応し、あちこちの部屋から住人達が飛び出してくる。おかげですぐに火元は見つかり、 誰かが呼んだ消防車が来た時には、消火活動は終了していた。  もし目覚ましが鳴らずに眠っていたら、家事は小火では治まらず、俺も他の住人も命はなかったかもしれない。  幼い俺が一目惚れし、子供にとってはかなりの大金を払って買った目覚まし時計。ずっと愛用し続けているこの時計。  物である以上、いつかは壊れてしまうのだろうけれど、動かなくなるまでは、ずっとこの時計を使い続けたい。 目覚まし時計…完
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