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ベッドサイドのカレンダーに、彼女の白い腕が伸びる。
その指先が、冬の日差しに細かく震えていた。
一緒に暮らす様になってしばらく経った頃、駅前の雑貨屋で彼女が見つけてきたカレンダー。
共に過ごす日々を慈しむ様に、日付が変わるとそっと一枚、彼女はそれを破っていた。
その仕草が好きだった。
そして、その行為の先にある現実を憎んだ。
気が付くと、オレはその華奢な手首を掴んでいた。
今まで聞いたことがないくらい大きな悲鳴が、室内に響く。
次の瞬間、大きく見開かれた瞳がこちらを振り返り、驚きと喜びで混沌とした言葉が彼女の口からほとばしった。
不意に横から現れた腕に掴まれて、驚かないはずがない。
肩のあたりを強く叩かれる。
さすがに驚かせ過ぎたか。
しばらく、されるがままに任せた。
一通りの抗議の後、さらに質問の言葉を紡ごうとする彼女の口許を、そっと掌で覆う。
至近距離で覗き込む瞳には、大粒の涙が滲んでいた。
胸がまだ上下している。
覗き込んだ彼女の瞳孔に、密に並ぶ翡翠色の花弁を錯視する頃。
ようやく目蓋が静かに落ちて、細い両腕がこちらへ伸びてきた。
それは、やがて別離へと繋がる営み。
焦燥を噛み殺しながらも、確かな約束は何ひとつ交わさなかった。
その代償として、互いに求め合う。
そこに存在しない何かを埋め合わせるかの様に、毎日身体を合わせる。
いまもまた、それを繰り返そうとしている。
濡れた粘膜に耽溺する皮膚。
既に慣れ親しんだはずなのに、悦楽の境界が曖昧になって、衝動へと追い立てられてゆく。
やがて、カーテンの隙間から射し込む冬の日差しが、室内の薄闇に染み入る頃。
自らの重みすら支えられなくなった二つの意識は、乱れたシーツへと沈んでいった。
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