9人が本棚に入れています
本棚に追加
すっかり通い慣れた図書館の片隅で、私はその本に出会った。
いままで足を向けたことがない児童文学コーナー。
その奥の書棚には雑多な本が、まばらに並んでいた。
未整理なのだろうか。
それらの中の一冊、濁った赤色の背表紙に視線が引き寄せられた。
銀字のタイトルは掠れて読めない。
手に取ってみると、革の装丁が手のひらにしっとりと冷たい。
ページを繰って視線を走らせてみても、どんなジャンルの物語なのか読み取れなかった。
それほど分厚い本でもない。
今日は新たに本を借りる予定はなかったけど、貸出カウンターにその本を持って行く。
いつもの不愛想な司書のおじいさんが、ぶつぶつ呟きながらバーコードリーダーを押し当てて、貸出の手続きをしてくれた。
図書館に隣接している公園の並木道。
地面を覆う広葉樹の葉が、足元でカサリと音を立てる。
これは何という名の植物だろうか。
ふと空腹を覚えている自分に気付いた。
辺りを見回して、目に留まった喫茶店に入る。
老夫婦が営む小さな店内には、何十年分もの珈琲豆の香りが沈殿しているみたい。
トーストとコーヒーのモーニングを頼む。
今日、二回目の朝食。
寒い季節は、いつも以上にお腹が減る。
お婆さんが運んできてくれた厚切りのトーストから、シナモンの香りが濃く立ち昇っていた。
最初のコメントを投稿しよう!