震える指先

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 すっかり通い慣れた図書館の片隅で、私はその本に出会った。  いままで足を向けたことがない児童文学コーナー。  その奥の書棚には雑多な本が、まばらに並んでいた。  未整理なのだろうか。  それらの中の一冊、濁った赤色の背表紙に視線が引き寄せられた。  銀字のタイトルは掠れて読めない。  手に取ってみると、革の装丁が手のひらにしっとりと冷たい。  ページを繰って視線を走らせてみても、どんなジャンルの物語なのか読み取れなかった。  それほど分厚い本でもない。  今日は新たに本を借りる予定はなかったけど、貸出カウンターにその本を持って行く。  いつもの不愛想な司書のおじいさんが、ぶつぶつ呟きながらバーコードリーダーを押し当てて、貸出の手続きをしてくれた。  図書館に隣接している公園の並木道。  地面を覆う広葉樹の葉が、足元でカサリと音を立てる。  これは何という名の植物だろうか。  ふと空腹を覚えている自分に気付いた。  辺りを見回して、目に留まった喫茶店に入る。  老夫婦が営む小さな店内には、何十年分もの珈琲豆の香りが沈殿しているみたい。  トーストとコーヒーのモーニングを頼む。  今日、二回目の朝食。  寒い季節は、いつも以上にお腹が減る。  お婆さんが運んできてくれた厚切りのトーストから、シナモンの香りが濃く立ち昇っていた。
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