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言いかけて止めた。まるで小学生だ。鴨川はニタニタ笑っている。掛け合いを楽しんでいるようだ。
「僕は……なんです?」
「いえ……、僕は、大トロを食べます」
ひょいとつまんでパクリと口の中に放り込んだ。
「あーっ! なあんて言いませんよ。俺はウニ食いますから」
鴨川はウニを抓むと、伏見の目の前に見せつけるように一度手を伸ばしてから口に入れた。
「ふが、んば、ぶほっ、びぐ、ひぐっ……」
口の中の大トロがまだ飲み込めずうまく喋れない。
「ばははははは、ばはははははは!」
鴨川が笑い出した。当然だがウニはまだ口の中だ。
「なっ、なんですかっ!」
ようやく大トロを飲み込んで伏見は脹れる。脹れたがすぐに笑いが零れた。可笑しい。なにが、と言われると答えに困るが、強いて言うなら小学生のような自分たちが堪らなく可笑しい。
「くふ、ふふふふふふふ、あは、あはははははは」
ついに声に出して笑ってしまった。
「ああ、やっと笑った……」
「え……」
鴨川がすぐ近くで顔を覗き込んでいた。
「あなたがこんな風に笑うのをずっと見たかった」
「あ……」
「っていうのは今思ったんですけどね。いつもきりっとした顔か、ここんところに深い皺を寄せてる顔しか見てなかったもんですから」
鴨川の指が伏見の眉間を突く。
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