66人が本棚に入れています
本棚に追加
伏見の不安を知ってか知らずか、鴨川もガバリと体を起こすと背中から抱きついてきた。
「でも、昼飯くらい一緒に食べる時間ありますよね? どっかで食っていきましょうよ」
「ええ、ご一緒します」
「ホントはもっと長く一緒にいたいんですけど……」
「ダメです。これは上司の命令ですよ」
「うひゃあ、もう厳しいんですね。でも俺、そういうの嫌じゃないです。やっぱりMなのかなぁ……」
「だからM、ってなんなんですか……」
「いいから、いいから。その内わかりますって」
「……わかりたくないような気がします」
「わはは、いいなあそういうの……」
「鴨川さんっ!」
笑い転げる鴨川を促して身支度を整え、連れ立って部屋を出た。
いい天気だ。風は冷たいが心は温かい。人通りの少ない道では鴨川が手を繋いできた。温かくて大きな手。しっかりと繋いでいよう。離さないでおこう。伏見は照れ臭くて俯いていたが、しっかりと心に決めた。
駅へと向かう道を鴨川は回り道をして公園に寄ってくれた。今日はポツリポツリと親子連れや通り抜ける人の姿が見える。
「いませんね、あの猫……」
鴨川がぼそりと呟く。
最初のコメントを投稿しよう!