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「なあ、ちょい待ち。あんな、まるでママが作ったような顔して、そうやって出してるけどな、それは僕の愛妻が丹精込めて作った愛妻お節やで。そこんとこようわかって食べて貰わんとあかんからな」
ワカメ頭の大男が割って入る。
「や、先生、僕、愛妻じゃないし。恥ずかしいからやめてよ」
仔犬のような青年が言い返す。
「なんでえな、ええやないの、この連中の前やったらなに言うたかて」
「だめったらだめ」
ワイワイと騒ぐ四人の男たちを前にママは目を細める。今年もいい一年になりそうだ。そこへ、猫ドアを開けて黒猫が入ってきた。
「おんや、烈姫(れき)ちゃんおかえり。見回りは済んだのかい?」
烈姫と呼ばれた黒猫はカウンターの上にひょいと飛び乗ると毛繕いを始めた。
「あれ、やだよこの子、チーカマの匂いがする」
「チーカマ?」
「チーカマなんか喰うのか?」
「俺、チーカマ好き!」
「どこぞの酔っ払いのつまみでもかっぱろうたんとちゃうん?」
「やだねえ、この子がそんなことしたりするもんかね。優しい人に貰ったんだよねぇ?」
五人の言葉を聞いてか聞かずか烈姫はニャア、と鳴いた。
今夜、新しく幸せなカップルが誕生したことを知っているのは烈姫ただ一匹だけだった。
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