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六畳の和室にコタツとベッド。小さなキッチンにトイレと風呂。壁にスーツが何着か、ハンガーに掛けて吊るされている。
鴨川の住むアパートは古くて狭いが、こざっぱりと片付いていた。
「散らかってなどいないじゃないですか」
伏見はくるりと見回して冷蔵庫を覗き込んでいる鴨川を振り返った。随分掃除してないんです、と鴨川が答えた。
「物がないだけなんですよ。手狭になったんで、そろそろ引っ越そうかと思ってた矢先にリストラされて。失業中に売れるものは全部売っちゃいましたからね」
「鴨川さん……」
「いやあ、案外さっぱりしていいもんですよ。非常にシンプルに暮らしてます」
鴨川はカラカラと笑いながら冷蔵庫の扉を閉め振り向いた。手には醤油と缶ビールを持っている。
苦労もあっただろうし焦りもしただろうに、それを笑い飛ばしてしまえる鴨川が羨ましい。
「カップ酒にします? それともビール?」
「カップ酒を……」
「了解。どうぞ、コタツ入っててくださいよ。寒いでしょ」
「あ、はい、それじゃ失礼して……」
伏見はひとり用の小さなコタツに足を入れた。まだ温まっていないコタツの中はひんやりとぬくぬくが同居していて不思議な感じがした。
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