烈姫 おまけ

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「まずは乾杯しましょう」  鴨川が缶ビールを掲げる。伏見も慌ててカップ酒を持ち上げた。 「伏見さんと俺に。乾杯!」  缶ビールがカップ酒にコツンと当たる。伏見の心臓がトクンと鳴った。 「乾杯……」 「それじゃ、寿司いただきます」 「ええ、どうぞ」  鴨川は豪快に寿司を頬張りまた声を上げた。 「ひえー、うめー! 伏見さん、ボーっとしてると俺、全部食っちゃいそうです。早く伏見さんも食べてください」 「あ、え、ええ……」  伏見も箸を伸ばす。奮発して特上を買ったのに味などわからなかった。  買った時には、鴨川との初めてで最後の食事になるのだろうと思っていた。だから、せめていいものを食べよう、と思った。  たった一度の思い出を胸に、潔く身を引こうと、迷惑をかける前に、自分がどうにかなってしまう前に、鴨川の前から姿を消そうと思っていた。まさかこんな展開になるとは想像すらしていなかった。  鴨川は好きだと言ってくれた。会社を辞めるなと言ってくれた。嬉しかった。嬉し過ぎてなにがどうなったのかよくわからなくなっている。
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