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アパートに誘われて、泊っていけの言葉に頷いて、こうして向かい合って寿司を食べている。記念すべき最初の食事になった。だが最後ではない。次がある、次の次も、その次の次もきっと。
夢を見ているようだった。実際夢なのかも知れない。寿司の味も酒の味も全くわからないのだから。
伏見はコタツの中に両手を突っ込んで握りしめた。冷たい。でもコタツの中は温かい。夢だとしたら変な感じだ。
「伏見さん?」
優しい声に伏せていた顔を上げた。
「どうしたんです? あ、あの、酔っちゃいました? 気分悪い?」
「いえ、違います。そうじゃなくて……」
「あっ、あの俺、ひとりではしゃいじゃって。なんか夢みたいで……。ついさっきまで人生最大かってくらいヘコんでたくせに。あの……がっかりしました? 俺、なんか軽い男だって思われてないですか?」
口の端に寿司メシを一粒付けたまま一生懸命に語る鴨川を見ていると口元が緩む。
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