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「や、や、やめてください、そんなこと。それ以上言ったら、僕は、僕は……」
伏見は両手で顔を覆った。その手に鴨川の手が触れる。やんわりとした力で開かされた。
「伏見さん、俺の前では肩の力抜いてください。俺はあなたのことが好きです。だから、今夜こうして話してみて、いろいろわかりました。俺だって、ゲイバレしないように世間向きの仮面つけて生きて来ました。だけど伏見さんとふたりの時は外します。だって、つけてる必要ありませんから。だから伏見さんも、うーんと力を抜いてください」
「鴨川さん……」
「寿司、食いましょ」
伏見の目の前にパクリと寿司を頬張る鴨川の笑顔があった。社内で見かけるたびに胸が苦しくなった笑顔だ。決して自分に向けられたものではなかったから。その笑顔が今目の前にある。伏見にだけ向けられた笑顔だ。
ごくごく自然に言葉が出た。
「僕も、好きです。鴨川さん」
「知ってます。さっき聞きましたから。でも、何回でも言ってください。俺も何回でも何万回でも言いますから」
「はい、言います。たくさん。何万回も、何十万回も……」
「俺は何百万回も言いますよ」
「じ、じゃあ僕は……」
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