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春生さんが泊まりに来ると言ってくれた当日、俺は朝からずっとソワソワしっぱなしだった。
「充樹、晩ご飯は冷蔵庫の中に作り置きしてあるから、それを温めて食べてね? 多めに作ったから明日の朝ご飯にも」
「わかっ……解ってる!」
「ご飯はお米を研いで炊飯タイマーを押してあるから、後は炊飯器が勝手にやってくれるわ。それから、お風呂も掃除してあるから……」
もうそろそろ家を出なきゃいけない時間だというのに、母親があれもこれもと俺に話しかけてくる。
「本当に充樹一人で留守番出来るのか?」
母親の分の荷物まで抱えた父親が、心配そうに母親に尋ねている。どうやら母親は春生さんが泊まりに来る事を父親に話してないらしい。
「いやね、もう。一晩くらいどうって事ないわよ。お父さんってば過保護ねぇ」
クスクス笑って父親をたしなめているが、俺が一人で留守番するのが心配だから春生さんに泊まりに来てもらえと言い出したのは母親じゃないか。
「じゃ、行ってくるわね。帰る前に連絡するわ」
最後に「頑張って」と俺の手をギュッと握り締めてから、父親と母親が揃って家を出ていく。父親にしてみたら留守番を頑張れって意味だと思っただろうが、俺には解ってる。頑張って春生さんに我儘を言って甘えろという意味なのを。
「どう頑張ればいいんだよ……」
春生さんが来ると言っていた時間は16時頃。それまでは用事があるから、それを済ませて一旦家に帰ってからウチに来るらしい。
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